慢性膵炎 - すい臓の病気
慢性膵炎
どんな病気(疾患の定義)
慢性膵炎とは、すい臓の中で炎症が徐々に起こり、正常な細胞が破壊されて線維組織に置き換わり、進行すると消化吸収不良や糖尿病を引き起こす病気です。 慢性膵炎は、⾧期にわたってすい臓の炎症が持続することによって、すい臓の働きが徐々に衰えていきます。 食べ物を消化する働きをもつ膵液(消化酵素)が、すい臓自身を溶かしてしまい、くり返し炎症を引き起こすことによって、すい臓の正常な細胞が徐々に破壊され、すい臓が硬くなったり(線維化)、すい臓の中に石(膵石)ができたりします。 慢性膵炎になると、病気は徐々に進行し、基本的に治ることはありません。
主な症状
一般的にお腹や背中の痛み、お腹の上のほうを押されると痛い、体がだるいなどの症状があります。腹痛は、お酒を飲んだあと、食べ過ぎや脂肪分のとり過ぎなどにより引き起こされます。慢性膵炎を発症すると、腹痛の発作が5~10年にわたりくり返し起こります。病気が進むと、腹痛は弱まったり、なくなりますが、さらに進行すると、食べ物がうまく消化できなくなったり、糖尿病を発症したりします。
慢性膵炎の疫学
慢性膵炎の患者数は、増加傾向にあり、2016年では56,520人でした。1994年と2016年を比較すると約1.7倍増加しています(図6)。 また、慢性膵炎の新規患者数も増加傾向にあり、2016年では14,740人でした。1994年と2016年を比較すると約2.4倍増加しています(図6)。 慢性膵炎は、一般的に40~50歳代で発症することが多いといわれています。
図6 慢性膵炎の年間推計受療患者数
慢性膵炎の原因
2016年の1年間に慢性膵炎で全国の医療機関を受療した患者さんを対象とした調査によると、慢性膵炎の原因は、男性の79.1%がアルコール性、17.2%が原因のはっきりしない特発性でした。一方、女性は55.0%が特発性、37.6%がアルコール性でした(図7)。
図7 慢性膵炎の原因
病期分類
慢性膵炎の病期は、代償期、移行期、非代償期の3つに分けられる
代償期は、すい臓の機能が保たれているため、膵液の分泌に伴い腹痛をくり返します。移行期は代償期から非代償期に移行する時期で、すい臓の働きが徐々に衰え、腹痛は次第に軽くなります。非代償期では、慢性膵炎が進行して正常なすい臓の細胞が失われ、すい臓の機能が著しく低下するため腹痛は軽減するかなくなりますが、食べ物の消化と血糖値の調節が不十分となり、消化吸収障害や糖尿病を引き起こします(図8)。 最近では、ごく初期段階の慢性膵炎を早期慢性膵炎と呼ぶようになりました。
図8 慢性膵炎の病期とすい臓の状態
診断
慢性膵炎の診断は「慢性膵炎臨床診断基準 2019」をもとに、お腹の症状、血液・尿検査、画像検査、飲酒歴などをあわせて行います(表 3)。血液・尿検査では、アミラーゼ、リパーゼなどの膵酵素の異常を調べます。画像検査では CT 検査や MRI 検査、内視鏡などを用いて、すい臓の石灰化、膵管の拡張や狭窄(すぼまって狭くなること)、結石(胆石や膵石)などの特徴的な変化を確認します。また、すい臓の消化機能(外分泌機能)を調べる検査も行います。慢性膵炎の診断がついたら、進行具合から病期を見極めます。
表3 慢性膵炎の診断の方法
慢性膵炎の治療
治療の基本は生活習慣の改善
治療の基本は、慢性膵炎を悪くする要因をできるだけ少なくし、進行しないように気をつけることです。お腹や背中の痛みが出現する初期では、痛みが出ないような日常生活、断酒や禁煙を心がけ、脂肪の多い食事を控えるなどの食生活にも気を配ることが大切です(表4)。少し痛みがあるくらいの初期の段階で進行しないように気をつければ、すい臓の機能が保たれ、膵臓がんを発症する危険も少なくなります。すい臓の状態をよく理解し、生活改善にとり組むことが大切です。
表4 慢性膵炎を進行させないために気をつけてほしい9つのこと
代償期、移行期、非代償期では治療法が異なる
慢性膵炎の治療は、病気の原因(アルコール性か他の原因か)、活動性(急性膵炎がくり返し起こっているか)、重症度(消化不良や糖尿病、外科的治療が必要な合併症などがあるか)を調べて、それらに応じて生活指導や食事療法、薬物療法を始めます。 慢性膵炎は、病気の進行過程によって代償期、移行期、非代償期の3つの時期に分けられ、治療はそれぞれの時期の症状やすい臓の機能がどれだけ保たれているかに応じて行います。 正常な細胞が残っている代償期では、お腹や背中の痛みをくり返すので、鎮痛薬や痛みの原因となる炎症を抑えるたんぱく分解酵素阻害薬の投与などの薬物療法を行います。断酒も腹痛の消失に有効で、予後の改善のためにも勧められます。また、高脂肪食後に腹痛を伴う場合は、食事脂肪制限を行うこともありますが、⾧期の過剰な脂肪制限は低栄養となるため気をつける必要があります。急性の激しい痛みがある場合は入院治療が必要ですが、多くは通院による薬物療法と食事指導などで痛みをコントロールします。 非代償期では、痛みなどの症状が軽減される一方、すい臓の機能が著しく低下するため消化吸収障害や膵性糖尿病が現れてきます。消化吸収障害では、食べ物をうまく消化できないため、未消化の便や軟便が出たりします。また、栄養素が吸収できないため栄養状態が悪くなります。これらを防ぐために、食事制限せず、十分な食事をとり、食事を消化吸収するために膵消化酵素薬補充療法を行います。膵性糖尿病の治療では、消化吸収障害に対する治療と適切なエネルギー投与を行ったうえで、血糖コントロールを行います。
参考文献
日本消化器病学会編: 患者さんとご家族のための 慢性膵炎ガイド, Q1, Q2, Q4, Q7, 日本消化器病学会,2018.
日本消化器病学会編: 慢性膵炎診療ガイドライン 2021, 改訂第 3 版, pp97, 103, 南江堂, 2021.
糸井隆夫監修:膵臓の病気がわかる本 急性膵炎・慢性膵炎・膵のう胞・膵臓がん, pp46-48, 52, 58, 2021, 講談社.
Masamune A, et al.: J Gastroenterol. 2020; 55: 1062-1071
日本膵臓学会:膵臓, 2019; 34: 279-281
伊藤鉄英監修:電子書籍アプリ「慢性膵炎」の話をしよう。生活習慣の手引き2022(第2版)
(http://www.suizou.org/etc.htm#220615-3), 厚生労働省難治性疾患克服研究事業難治性膵疾患に関する調査研究班(班⾧:竹山 宜典), 企画編集:大道学舘出版部, 制作:株式会社ジャパンイズム, 2022.