急性膵炎

どんな病気(疾患の定義)

急性膵炎は、消化酵素がすい臓内で活性化されることよってすい臓が自己消化され無菌的に発症する急性炎症のことをいいます。
突然、お腹や背中の痛み、吐き気、発熱などに襲われたら、急性膵炎かもしれません。

図2 急性膵炎の原因

すい液の流れ 消化酵素がすい臓そのものを消化 すい臓の細胞が破壊される すい管や総胆管がむくむ十二指腸の入口が塞がれる POINT 急性すい炎は、すい臓が自己消化される 伊佐治秀司監修:図解決定版 すい臓の病気と最新治療&予防法,p57,日東書院,2016.

伊佐治秀司監修:図解決定版 すい臓の病気と最新治療&予防法 p57, 日東書院, 2016

急性膵炎は膵臓が自己消化される

健康な人の場合、膵液に含まれるたんぱく質の消化酵素であるトリプシンは、すい臓内にあるうちは消化能力をもちません。これは、たんぱく質でできているすい臓を溶かさないようにするためで、十二指腸に流れ込んではじめて胃液や腸液と混じりあうことで活性化され、消化能力を発揮します。 ところが、大量の飲酒などが原因ですい臓の機能が低下したり、膵管が塞がって膵液の流れが滞ると、行き場を失った膵液は膵管内にどんどんたまっていきます。やがて膵管のすき間から膵液がもれ出すと、活性化した消化酵素がすい臓の組織を消化しはじめます。

主な症状

急性膵炎の初発症状は、腹痛が最も多く、次いで嘔吐、発熱、背部痛です(表1)。従来から、急性膵炎の患者さんの90%以上が腹痛を訴えると報告されており、最も特徴的な臨床症状は、立っていられないほどの胃やおへその上あたりの激しい痛みです。

表1 急性膵炎の初発症状(急性膵炎2016 年全国調査)

急性膵炎の初発症状

Masamune A, et al. Pancreatology. 2020 Jun;20(4):629-636

疫学

日本膵臓学会が行った急性膵炎全国疫学調査によると、急性膵炎の患者数は年々増え続け、2016年には78,450例でした(図3)。また、2016年に行われた急性膵炎の全国疫学調査では、男女比は2:1、発症年齢は男性59.90歳、女性66.5歳で、男女差がみられました。

図3 急性膵炎の年間推計受療患者数

急性膵炎の年間推計受療患者数の表

正宗淳ほか. 胆と膵. 2014, 35; 1011-1014.より改変
Masamune A, et al. Pancreatology. 2020; 20: 629-636より作成

急性膵炎の原因

急性膵炎の原因は、2016年に行われた急性膵炎の全国疫学調査によると、男性ではアルコール性が42.8%で最多で、次に胆石性の19.8%でした。女性では胆石性が37.7%で最多で、次に原因がはっきりしない特発性の24.8%でした(図4)。

図4 急性膵炎の男女別の原因の割合(急性膵炎 2016 年全国調査)

急性膵炎の男女別の原因の割合の円グラフ

Masamune A, et al. Pancreatology. 2020; 20: 629-636.

急性膵炎の診断

急性膵炎が疑われる場合は、検査で診断を確定し、さらに重症度を判定します(図5)。 ①激しい上腹部の痛み、②血中や尿中の膵消化酵素の上昇、③超音波、CT、MRIなどの画像検査の異常を総合的に判断して行い、これら3つのうち2つ以上があてはまれば急性膵炎と診断します。急性膵炎の基本的診療方針は図5の通りで、重症度の判定がポイントになります。

図5 急性膵炎の診断と重症度の判定

急性膵炎の診断と重症度の判定の図

糸井隆夫監修:膵臓の病気がわかる本 急性膵炎・慢性膵炎・膵のう胞・膵臓がん, p32, 講談社, 2021.

●重症度の判定基準

急性膵炎の多くは軽症で、すい臓は元どおりに回復します。しかし、約20%はすい臓の炎症が全身の臓器に広がって、血圧低下や呼吸困難、尿量の低下など、重篤な症状が現れる「重症急性膵炎」になります。 重症急性膵炎は、早期に診断し、適切に対処する必要があります。入院当初は軽症にみえても、翌日には重症化することがあるため、入院時、24時間以内、24~48時間以内に重症度判定を行います(表2)。

表2 急性膵炎の重症度の判定基準

●心拍数が上昇している●血圧が低下している●呼吸の状態が悪化している●尿量が低下している●血液検査やCT検査による病状の悪化が認められる
 ●70歳以上の高齢者である これらの兆候や検査結果、症状等から判定が行われる 糸井隆夫監修:膵臓の病気がわかる本 急性膵炎・慢性膵炎・膵のう胞・膵臓がん,p33,講談社,2021.

糸井隆夫監修:膵臓の病気がわかる本 急性膵炎・慢性膵炎・膵のう胞・膵臓がん, p33, 講談社, 2021.

急性膵炎の治療

絶食して膵臓を休ませる

急性膵炎と診断されたら、軽症でも入院治療を行います。初期治療として、絶食して膵液の分泌を抑えます。また、脱水や循環不全を伴うため輸液療法を行い、お腹や背中の痛み、炎症を鎮め、感染の合併症を防ぐために薬物治療などが行われます。 急性膵炎では、すい臓がつくる消化酵素により、すい臓が消化されてすい臓自体に炎症を起こします。自己消化が続くと、すい臓の組織が壊死して、重症化につながります。炎症を抑えるには、膵液の分泌を抑えなければなりません。 食事をとったり水を飲んだりすると、その刺激で膵液が分泌されるため、絶食と安静が治療の基本になります。点滴で水分と栄養を補給しながら、すい臓を休ませます。そのため、軽症例では1~2週間程度の入院が必要です。 重症例では集中治療室(ICU)で厳重な管理を行う必要があり、1~2か月程度の入院が必要になることがあります。女性で原因が1位の胆石による急性膵炎では、原因となる胆石をとり除く治療が行われます。

参考文献

1)日本膵臓学会教育委員会編:膵臓病診療ガイドブック, p162, 診断と治療社, 2020.
2)糸井隆夫監修:膵臓の病気がわかる本 急性膵炎・慢性膵炎・膵のう胞・膵臓がん, pp29, 30, 32-37, 講談社, 2021.
3)伊佐治秀司監修: 図解決定版 すい臓の病気と最新治療&予防法, pp56-58, 日東書院, 2016.
4)急性膵炎診療ガイドライン2021改訂出版委員会編: 急性膵炎診療ガイドライン2021第5版, p18, 24-25,
27, 48, 32-34, 56, 57, 59, 61, 82-84, 金原出版, 2021.
5)Masamune A, et al. Pancreatology. 2020; 20: 629-636.
6)正宗淳ほか. 胆と膵. 2014; 35: 1011-1014.
7)税所宏光監修: 健康ライブラリー イラスト版 膵臓の病気 急性膵炎・慢性膵炎・膵臓ガンの治し方, p36, 講談社, 2011.

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