東京女子医科大学消化器内科 教授 清水 京子先生

すい臓って聞いたことはあるけど、体のどこにあるのか、どんな働きをしているのかまでは知らないという人は案外多いのではないでしょうか。しかしこのすい臓、実は体内で非常に重要な役割を果たしています。しかもすい臓の病気の一つ「慢性すい炎」は進行すると完治が難しいのですが、初期症状が他の病気と似ていることもあって分かりづらく、気づかない間に“隠れ慢性すい炎”になっている人が意外に多いのです。そこで今回は、この慢性すい炎についてより多くの方に知っていただくため、専門医に話をうかがう特集を4回シリーズでお届けします。第1回は東京女子医科大学の清水京子先生に、慢性すい炎に関する基本的なことを教えてもらいました。

東京女子医科大学消化器内科 教授 清水 京子先生

すい臓は体のどこにあるのですか?

清水先生「ちょうど胃の裏側にあります」

すい臓はみぞおちから少し下がった辺り、ちょうど胃の背中側にあります。長さ15~20センチの細長い臓器で、右側が太く左側が細くなったピストルのような形をしています。イラストで見ると分かりやすいかもしれませんね。

膵臓の位置と周囲の臓器

どのような働きをする臓器なのですか?

清水先生「食物を消化する消化液と、血糖値を調節するホルモンを分泌する働きをします」

すい臓の働きは主に二つあります。一つは食べたものを消化する消化液の分泌、もう一つは糖の代謝に必要なインスリンやグルカゴンなどホルモンの分泌です。

食物の消化が胃で行われることは一般的に知られていますが、実はすい臓からも消化液が多く分泌され、消化の重要な役割を担っているのです。すい臓の機能が低下するとこの消化液を産生するところがなくなり、食べ物は消化されないまま排便されることになります。

また、インスリンとグルカゴンによって血液中の糖の量がバランス良くコントロールされているため、糖も効率よく吸収されエネルギーとして使われるのですが、すい臓がダメージを受けて炎症を起こすと血糖を下げるインスリンの働きが悪くなり、常に血糖値が高い状態になってしまいます。その結果、すい臓がきちんと機能しなくなると、各細胞に栄養が供給されず、エネルギーをうまく生み出すことができなくなってしまうのです。

すい臓の病気「慢性すい炎」とは、どのような病気なのでしょうか?

清水先生「消化酵素が過剰に活性化され、自らのすい臓をゆっくりと破壊していく病気です」

すい臓から分泌される消化液には、食物を分解するすい酵素(消化酵素)が含まれています。通常このすい酵素はすい臓の中では活性化しないのですが、大量飲酒などが続くと活性化するようになり、自分のすい臓までも消化してしまいます。

すい酵素がすい臓の中で急激に活性化され、すい臓を溶かしてしまうのが急性すい炎です。そして、この急性すい炎を何度も繰り返したり炎症が持続することで引き起こされてしまうのが慢性すい炎です。慢性すい炎を発症が進行すると消化液やインスリンを作る細胞が減少し、代わりに線維が異常に多くなってすい臓そのものが硬化していきます。

慢性すい炎の原因として圧倒的に多いのがお酒の飲み過ぎです。また、たばこや脂っこい食べ物も良くないと言われています。ですから、普段から大量に飲酒ながらたばこを吸う人、脂肪分の多い食べ物をよく摂取する人は罹患(りかん)しやすいと言えます。

「特発性」と言って原因のよく分からない慢性すい炎もあります。男性患者の約7割はお酒が原因ですが、女性患者の半数近くが特発性の慢性すい炎です。

また、最近になって原因の一つとして注目されているのが遺伝子です。幼児期から急性すい炎を起こし始め、若年で慢性すい炎を発症する遺伝性すい炎という指定難病があります。遺伝性すい炎以外にもすい炎になりやすい遺伝子変化があることがわかり、慢性すい炎の発症のリスクになることがわかってきました。

東京女子医科大学消化器内科 教授 清水 京子先生

慢性すい炎ではどのような症状が起こるのでしょうか?

清水先生「初期段階では腹痛が最も多い自覚症状です」

慢性すい炎は約5~10年かけて進行していく病気なので、初期段階とかなり進行している段階とでは症状がまったく異なってきます。

初期の自覚症状として最も多いのが腹痛です。まれに痛みのない患者さんもいますが、約8割は腹痛を訴えます。すい臓が胃の裏側にあるため、痛みは上腹部、背中、腰まで次第に広がり、吐き気や嘔吐(おうと)を引き起こす場合もあります。

例えば胃の病気なら、周期的にギューッと締めつけられるような痛みが特徴ですが、すい炎の場合は上腹部から背部への持続的な痛みで、飲酒や脂肪食摂取により悪化し、ついには我慢できないほどの痛みになることがあります。痛みの始まりは食後しばらく経ってから痛みが始まるという場合が多いのです。

その他の初期症状としては、おなかの膨満感、体の倦怠(けんたい)感などもあります。

慢性膵炎の典型的な症状

初期の段階ではこのような腹痛などの症状はあるものの、すい臓の働きは保たれています。しかし進行するとすい臓の働きそのものが徐々に低下し、消化液やホルモンの分泌も減少し、すい臓は痩せ細り、機能が著しく低下してしまいます。

そうすると腹痛で苦しむことは少なくなるのですが、消化不良による下痢や脂肪便が続いたり、おなかが張ってガスがたまったりします。そして栄養不良や体重減少、筋肉・筋力の衰え、急激な糖尿病の悪化、さらにはすい臓がんになってしまう恐れがあります。

よく聞く「急性すい炎」との違いについて教えてください

清水先生「急性すい炎を繰り返すと慢性すい炎になるリスクがあります」

急性すい炎は胆石や飲酒などの原因によってすい臓に障害が起こる病気で、急性すい炎の原因が除去されると元に戻ります。最も多い症状はやはり腹痛です。痛みの程度は、軽い鈍痛からじっとしていられない激痛までさまざまで、脂肪の多い食事や大量飲酒後に発症することが多いです。基本的に慢性すい炎の初期症状は急性すい炎の症状とほぼ同じで、この急性すい炎は可逆的で回復しますが、飲酒を継続して急性すい炎を何度も繰り返すうちにすい臓の炎症が持続して、不可逆性に進行した慢性すい炎に至ります。

急性すい炎と慢性すい炎の違いは、急性すい炎の大きな原因の一つに胆石があることです。すい臓で分泌される消化液(すい液)の出口である十二指腸乳頭に胆石がつまってしまうことで急性すい炎を発症します。胆石性の急性すい炎は胆石を取り除くことで回復し、慢性すい炎になることはありせん。

東京女子医科大学消化器内科 教授 清水 京子先生

症状がなくても気をつけた方がいいのはどんな人でしょうか

清水先生「普段からお酒をよく飲む人やたばこを吸う人は気をつけてほしい」

まずはお酒を控えてほしいですね。一日にビールの500ミリリットル缶を2本以上飲んでいる人は要注意です。それにアルコール度数が高い場合は、同量でもアルコールそのものが増えることになってしまいます。また、おつまみに脂っこいものを食べるのもできれば控えめにしてほしい。すい臓の負担になります。

たばこは全くダメです。お酒を飲まなくても、たばこを吸う人は慢性すい炎になりやすい傾向にあります。

慢性すい炎は長い期間をかけて徐々に進行する病気で、症状が重くなってくると治癒することが難しく、一生つき合っていかなければならなくなります。ただ、早期慢性すい炎と言って慢性すい炎の初期段階でお酒やたばこをやめれば、それ以上悪くならないようにできます。

つまり、慢性すい炎は早期発見が明暗を分ける病気だということです。普段からお酒は適度な量を心がけ、たばこはすい臓がんのリスクにもなりますので、禁煙をお勧めします。また、普段から飲酒や喫煙の多い方で「腹痛がする」「背中が痛い」といった症状がある場合は、医師に胃腸だけでなくすい臓も併せて診察してもらうようにしてください。(談)

PROFILE

東京女子医科大学消化器内科 教授 清水 京子先生

清水 京子

しみず・きょうこ/1984年、東京女子医科大学卒業後、同大学消化器内科研修医として入局。90年、谷津保健病院内科勤務、91年、米国ロチェスター大学研究員、94年、東京女子医科大学臨床検査科助手(消化器内科兼任)、2004年10月から東京女子医科大学消化器内科へ。18年から現職。現在は家族性すい臓がんの遺伝子解析、すい臓の線維化の機序の解明、すい嚢胞(のうほう)性疾患の診断の向上に関する研究、すい臓がんの薬物療法に関する研究などを行っている。

第2回 「慢性すい炎」を放っておいたらどうなるんですか?

第2回はタレントの哀川翔さんと清水京子先生の対談形式で、慢性すい炎がどのような疾患なのかをさらに詳しく解説していきます。